「らしさ」を育てるシュタイナー教育とモンテッソーリ教育 --- 発達支援へのチャレンジ

衛藤 吉則(著)
「生きづらさ」を抱えた 子どもたちの個性に寄り添う-----哲学教授にして自ら児童教育に携わる著者による、現場から得られた貴重な実践の報告と理論的探究。(本書オビ文より)
シュタイナー教育とモンテッソーリ教育は、共通する人間観・世界観に基づき、子どもの健全な成長を導く「遊びや作業への集中・没入現象」をもたらしている。それゆえ、わたしたちはこの点に着目し、その方法を、発達に課題がある子どもたちの教育・療育に応用することを企図した。では、両教育は世界の学校教育にいかなる成果と影響をもたらし、とりわけ発達に過大がある児童の教育に、いかなる点で有効と考えられるのだろうか(本文より)
「この本は、郷里の北九州市に2018年11月19日に創設したNPO法人シュタイナー&モンテッソーリ・アカデミー(多機能型児童通所事務所:児童発達支援・放課後等デイサービス。事業所名はシュタイナーハウス・モモ。以降「モモ」と呼ぶ)において、「生きづらさをもつ子どもたち」とともに歩んだ二年間にわたる教育実践の記録である。
本論は、第一部の実践編と第二部の理論編で構成される。第一部の実践編では、わたしたちが教育のメソッドとして用いるシュタイナー教育とモンテッソーリ教育について、主にその実践にかかわる部分を解説する。生きづらさを抱える子どもたち一人ひとりが「らしさ」を発揮できる教育とはいかなるものかについて、わたしたちの実践を通じて紹介してみたいと思う。第五節に掲載した「保護者の声」もまた、わたしたちの実践が不登校児を含む多様な子どもたちに役立ちうることを示している。第二部の理論編では、シュタイナー教育とモンテッソーリ教育の理論的関係や思想的な位置づけが述べられている。実践の根拠を思想的に知りたい方に読んでいただきたい。」(P10「本書の構成」より)
【目次】
- カラー口絵
- はじめに
- I 実践編
- 第1章 発達に課題がある児童をめぐる問題状況とシュタイナーハウス・モモの基本方針
- 一. 発達に課題がある児童をめぐる問題状況
- 二. 「らしさ」の喪失
- 三. 「らしさ」を発揮する心の構造
- 四. 「モモ」が実践の核に置いたもの
- 五. 保護者の声
- 六. 発達に課題をもつ不登校児の受け入れについて
- 一. 発達に課題がある児童をめぐる問題状況
- 第2章 シュタイナー教育に基づく実践
- 一. 体験活動としてのエポック授業
(1)土に触れる
(2)古い地層に思いをはせる --- 恐竜・化石採取・鉱物採取・鍾乳洞探検へ
(3)魚釣り
- 二. 体験活動としての養蜂
(1)シュタイナー思想にみる養蜂の意義
(2)モモでの養蜂活動
- 三. 体験活動としての自然農業
(1)植物の循環を感じる麦づくり
(2)田んぼと米作り
- 四. 学習活動 --- 文字が書けない子どものための教育実践
(1)A君との出会いと無意識への注目
(2)A君への教育実践 --- イマジネーションからのアプローチ
(3)A君へのひらがな教育の実践 --- 無意識への注目と身体活動からのアプローチ
(4)文字が書けた
- 五. その他の活動
(1)芸術活動(水彩画、音楽)
(2)ファンタジー(創造的想像力)を育む
(3)本読み
(4)文化活動
(5)対人関係を築く
(6)生き物採集と飼育
(7)家事 --- 料理・片付け・掃除
(8)植物の世話と観察 --- 自分の花への水やり
(9)睡眠とネットゲーム
- 一. 体験活動としてのエポック授業
- 六. 教師自身の自己教育の意義
- 第1章 発達に課題がある児童をめぐる問題状況とシュタイナーハウス・モモの基本方針
- 第3章 モンテッソーリ教育に基づく実践
- 一. モンテッソーリ教育との出会い
- 二. モンテッソーリ障害児教育との出会い
- 三. 福岡でのモンテッソーリ教育の出会い
- 四. モンテッソーリ教育の実践
- 一. モンテッソーリ教育との出会い
- II 理論編
- 第1章 シュタイナー教育を読み解くためのパラダイム
- 一. 「垂直軸」的な知の成立と「術」の起源
- 二. 議論の前提としての特殊 --- 普遍関係
(1)「普遍論争」の図式における「特殊即普遍のパラダイム」
(2)総合の鍵としての「形相(エイドス)」
- 三. 「垂直軸の思考」をもつ思想家とその特徴
(1)自己意識への注目 ---「汝自身を知れ」の道
(2)外なる相対的次元を超える思考
(3)高次の自己意識に到達するには固執する自己意識の否定が不可欠
(4)近代日本思想に観る「分けない物の見方」
(5)「具体的普遍」という見方
- 四. 自然科学による「垂直軸の思考」への接近
- 五. 「教育術」という新たなる科学・学問論の可能性
(1)精神科学的教育学に見る「垂直軸の思考」
(2)新たなる Wissenschaft(科学・学問)論の可能性
(3)シュタイナー教育に見る「術としての教育学」の学問的可能性
- 六. おわりに
- 一. 「垂直軸」的な知の成立と「術」の起源
- 第2章 シュタイナー教育思想とモンテッソーリ教育思想をつなぐ神智学
- 一. モンテッソーリとシュタイナーをつなぐ神智学
(1)神智学とは
(2)モンテッソーリ思想と神智学の出会い
- 二. モンテッソーリ教育思想と神智学に共通するパラダイム
- 三. 神智学のパラダイムに照らしたモンテッソーリ教育思想
(1)モンテッソーリ教育思想に見る神智学的記述
(2)モンテッソーリ教育思想の方向と中心概念の検討
- 四. モンテッソーリ教育思想理解のための視座と展望
- 一. モンテッソーリとシュタイナーをつなぐ神智学
- 第1章 シュタイナー教育を読み解くためのパラダイム
- おわりに
- 付録 シュタイナー教育思想とモンテッソーリ教育思想をつなぐ神智学(英語版)
A Theosophical Paradigm in Montessori Educational Thought: A Point of Contact with Steiner Educational Thought
●著者紹介
衛藤吉則(えとう・よしのり)
1961年 福岡県生まれ。広島大学大学院教育学研究科博士課程後期課程単位取得退学。
現 在 広島大学大学院人間社会科学研究科・教授(教育学博士)。
著 書 『シュタイナー教育思想の再構築 --- その学問としての妥当性を問う』(ナカニシヤ出版,2018年),『西晋一郎の思想 --- 広島から「平和・和解」を問う』(広島大学出版会,2017年),『松本清張にみるノンフィクションとフィクションのはざま ---「哲学館事件」(『小説東京帝国大学』)を読み解く』(御茶の水書房,2015年),『教育と倫理』〈人間論の21世紀的課題6〉〔共著〕(ナカニシヤ出版,2008年),『教育』〈岩波応用倫理学講義6〉〔共著〕(岩波書店,2005年),『仙?』〔共著〕(西日本新聞社,1998年),他。
寸法:横 約15.5cm×縦 約21.6cm×厚み 約20mm
224ページ
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